2010年5月25日火曜日

00年代以降のロゴデザイン傾向〜東京スカイツリー

最近80年代のデザインが気になっています。というのは、最近のデザインの方向性とは正反対だからです。以前古本屋で購入した『現代世界のグラフィックデザイン(全6巻)/講談社』という88〜89年にかけて発行された全集を開くと、とにかく主張が強いデザインが多いのが目につきます。それが現在でも活躍する巨匠の作品であっても、今だったら採用されないようなデザインも多く、とても興味深いです。そして、デザインにとって「時代の空気」がいかに無視できないかを痛感させられます。現在と比較したときの、80年代デザインの特徴は、以下の点が挙げられると思います。




(80年代/00年代以降)
線:太い/細い
色彩:原色(メリハリ強い)/中間色(調和重視)
レイアウト:かっちり・高密度/ゆるやか・低密度


以上は見た目の特徴ですが、80年代はとにかく「目立つ」ことに重点が置かれていたと思います。個人的には、00年代以降の「ゆるやか」なデザインの流行はすでに終わり始めていると思っていますので、80年代のデザインは今後のデザインの上でとても参考になります。


さて今回取り上げるロゴは今話題の「東京スカイツリー」です。




これは典型的な「00年代デザイン」だと思います。つまり「最高に無難なデザイン」だということです。つまり「誰からも文句が出ないデザイン」であり「誰もが見慣れたデザイン」です。東京スカイツリーのような公共性の高いものに関しては、最近では「市民目線」での文句が出やすいため、このようなデザインになったのはある意味仕方がないと思います。デザインの質については飛び抜けたところはないですが、うまくまとまっていると思います。ただ、スカイツリーが完成する頃にはちょっと時代遅れなデザインとして受け止められる可能性があります。





●東京スカイツリー

造形:★★★☆
テーマ表現:★
汎用性:★★★

※5点満点

2010年5月14日金曜日

読めないロゴについて考える〜六本木ヒルズ

よいデザインとは何か?
それは教科書的に言ってしまえば、「造形」「コンセプト」両方においてすぐれたものだと思います。

デザイナーにおいて「造形」のクオリティに関しては、ほぼ共通した認識を持っていますが、「コンセプト」については人によって違うことがあります。これは「よいデザインは何を目指すべきか」という答えが、デザイナーによって違うからです。わかりやすい例を挙げると、


「よいデザインが目指す目標とは」

・美術館などに永久保管される、高い文化的な価値
・売れる、大きな金銭的利益を生み出す
・イメージアップする
・信頼性・ブランド力を高める
・派手でインパクトがあって、目立つ、流行する

など様々です。


前置きが長くなりましたが、今回取り上げるロゴは「六本木ヒルズ」です。





このロゴが発表されたときは、いくつかのデザイン雑誌で取り上げられ、それなりに話題になった記憶があります。海外の有名デザイナーの作品だったはずです。
私はこのロゴを最初に見たとき「こんな読めないロゴタイプをよく採用したな」と思いました。
そして、学生時代に受けた外国人講師のある授業のことを思い出しました。その外国人講師は日本企業に勤めるデザイナーで、最初の授業のときに自分がこれまでに手がけた作品を見せてくれました。そのなかに、この六本木ヒルズのロゴタイプと似たようなコンセプトのものがあったのです。何が似ているかと言うと、英語のロゴタイプで、それぞれの文字に欠けているようなデザイン処理を施したものだったのです。その講師はこのロゴタイプをわたしたちに見せながら「このロゴは、日本人には読みにくいと言われ、採用されなかったものです。欧米人なら普通に読めるんだけど」と言いました。確かに一瞬では読めないものでした。言われれば読めるのですが。

私の考えではやはり「一瞬で読めないロゴ」はよいデザインコンセプトだとは思えません。
ですので、最初に述べた「よいデザイン」に対する考え方がこのロゴ制作の関係者とは違うのです。どちらが正しいと言うことはないと思います。

ちなみに、よく知られていることですが、六本木ヒルズのロゴタイプは、色々なバージョンがあります。これらのバージョンがセットになっていることもコンセプトのようで、この考え方は斬新でおもしろいと思いました。ここに「読めないロゴ」が採用された理由があるのかもしれません。










●六本木ヒルズ

造形:★★
★★
テーマ表現:★

汎用性:★★

※5点満点

2010年5月5日水曜日

防衛省・自衛隊、そして裁判員制度

今回もリクエストいただいたロゴを取り上げます。「防衛省・自衛隊」です。

このロゴが決定したのは3年前くらいだったと思いますが、周囲の評判がとても悪かったのをおぼえています。公募コンペで選ばれたデザインだそうです。
千葉県のロゴの例を挙げるまでもなく、多数の意見に乗っかって批判することはとても簡単です。特に歴史的な評価や権威付けがなされていない、アート(音楽を含む)やデザインは、どうしても[それまでになかったようなもの][違和感を感じさせるもの][一見簡単に作られたようなもの]であればあるほど批判されがちです。そのような批判は、予備知識などなくても誰でもできます。しかしそれは業界にとってプラスになるとは思えませんし、ただの妬み・足の引っ張り合いにも見えます。逆に、歴史的な評価が定まっている「名作」「傑作」を批判するのは、「それがなぜよくないのか」を説得力をもって説明するのに専門知識や高度な美意識が必要なので、読むに値すると個人的には思います。

さて、上記のような考えを踏まえつつ、本ブログでこの「防衛省」のロゴをどう論じるのか。これはもう、冷静に長所・短所を挙げていくしかありません。理想を言えば、批判の嵐が吹き荒れているなかで、論理的な説得力をもって「これはすばらしい。傑作だ」と言えればよいのですが・・・。




まずは、マークの造形から見てみましょう。構成要素として、円と楕円のみで構成されています。「防衛省」という巨大な組織のマークとして、シンプルな要素だけで構成することはよいことだと思います。以前のエントリでも述べたように、巨大な組織であれば用途も多岐にわたるため、汎用性が高い方がよいのです。しかし、このマークには残念ながら汎用性が高いとは決して言えません。
問題は2点あります。まずは、カラーリングにグラデーション処理を使用していることです。グラデーションは印刷方法によってはきれいに出ないことがあるので、通常は避けることが多いのです。今の印刷技術は昔よりは格段に向上しているので、グラデーション表現を使用しても、場合によっては問題ないこともあります。それでも印刷媒体(例えば段ボールなど)によっては色が汚く出てしまうことがあります。
2点目の問題は、真ん中の輪っかの最細部分や、2つの円の周りにある緑色の線が細すぎることです。これも印刷によってはうまく表現されない(つぶれてしまう)ことがあります。

さて、ではロゴの設計思想(コンセプト)はどうでしょう。これは、現在自衛隊が置かれている難しい状況を考えると、誰も「答え」が出せないのではないでしょうか。そのため、一番クレームが付かないことを念頭に置いて、選出されたのではないかと思います。そのような消極的な姿勢で制作されたものには、かえって多くのクレームがつくことがあります。なぜなら、誰も満足しないからです。シンボルマークの隣の「防衛省・自衛隊」の丸ゴシック体もそのような考え方で選ばれたのでしょう。安直なエコブームを彷彿とさせるようなロゴだと思うのですが、いかがでしょうか。

これらの問題は、制作者にあるとは思いません。公募コンペはコストが安く、指名コンペよりは公平性があるので、利用したくなるのもわかりますが、その分主催者側の資質が問われます。安易な公募コンペで採用されたデザインには質の高いものは少ないと思います。

●防衛省・自衛隊

造形:★★
テーマ表現:★☆
汎用性:★★

※5点満点




奇しくも、裁判員制度のマークにも上記に論じた解説とまったく同じことが当てはまります。(これは公募コンペではないようですが)。こういうものが流行なのでしょうか。不思議です。











●裁判員制度

造形:★★
テーマ表現:★☆
汎用性:★★

※5点満点