2012年6月13日水曜日

「570万円」のロゴ(ロンドン芸術大学)


—「570万円のロゴ」
最近ネット等で話題になった、「570万円」のロゴ(ロンドン芸術大学)。これについてはどのように考えればよいのでしょう?








ロゴデザインとして言えば、「歴史的名作」でないことは確かだと思います。しかしクオリティは高いです。文字同士の細かいスペーシングが、全体の緊張感を生んでいます。では、570万円という金額はどうでしょう? これについては何とも言えない部分があります。通常、大きなクライアントの案件であれば、ロゴ制作のための打ち合わせ・プレゼンだけでもかなりの回数を重ねるでしょうし、提出されたロゴが使用された場合のイメージ画像(名刺やレターヘッド、看板、社用車、段ボール箱など)を制作して、無数の検証を重ねるでしょう。そしてロゴが決定したら、数十ページにも及ぶ、用途別の「ロゴ使用マニュアル」を制作するでしょう。そうなれば、プロジェクトのスタートから決定まで、かなりの年月を要することになり、そこに570万円を支払ったとしても「高い」とは言えないのではないでしょうか。このロゴの場合、どこまでの範囲で570万円支払ったのかがよくわからないため、何とも言えないのです。ただ、大きな企業や公共事業であれば「570万円」という金額はそんなに驚くような金額ではないと考えます。もっと大きな金額のものもたくさんあるでしょう。
単に安く済ませるだけなら公募によるコンペ形式がよいでしょう。賞金100万円も出せば、かなりの応募が集まるでしょうから。しかし、そのようにして採用されたロゴが「名作」になりえるかどうかは、そのロゴの運用方法にかかっている部分も大きいのです。やはりその場合も厳格なロゴ使用の規定を策定する必要があり、そこにはそれなりのコストがかかるのです。

渋谷ヒカリエのロゴ


—渋谷ヒカリエ
東京スカイツリーとともに新たな東京の観光スポットとして、話題の「渋谷ヒカリエ」。







肝心のロゴはどうかというと、「ふつう」と個人的には感じています。ぱっと見た感じでは、文字の下部がカットされていて、「ちょっとおもしろいな」という印象はありますが、全体としては特に個性もなく、すごい完成度でもなく、「可もなく不可もなく」と思ってしまいました。「渋谷の新スポット」として騒がれている割には、ロゴは「新しさ」や「挑戦」が感じられません。これだったら、以前とりあげた「六本木ヒルズ」やその後にできた「表参道ヒルズ」のロゴの方が「新しさ」や「挑戦」が感じられます。








「ヒカリエ」を「新たな観光スポット」ではなく「百貨店」として考えると、このようなデザインになったことに理解がしやすいかもしれません。実際、運営業者は東急グループです。
「百貨店」はユーザーとして幅広い年齢層をカバーしなくてはなりません。そのなかでも「高齢者」は特に重要視されるでしょう。その場合「六本木ヒルズ」のような「読みにくい」文字は適切ではありません。そのためどうしてもデザインは保守的に成らざるを得ません。しかし、この「保守的」というのが非常にやっかいで、奇をてらったりできない分、本当の「文字の上手さ」が要求されます。完成度の高い文字を作ることは本当に大変です。しかし、「ヒカリエ」にはそこまでのクオリティはないように思います。個人的に感じたのは「Hik」の部分と「arie」部分で統一感がひまひとつだということです。最初の3文字は「直線的」で後の3文字は「丸っこい」ので、違和感を感じてしまうのです。