2010年5月5日水曜日

防衛省・自衛隊、そして裁判員制度

今回もリクエストいただいたロゴを取り上げます。「防衛省・自衛隊」です。

このロゴが決定したのは3年前くらいだったと思いますが、周囲の評判がとても悪かったのをおぼえています。公募コンペで選ばれたデザインだそうです。
千葉県のロゴの例を挙げるまでもなく、多数の意見に乗っかって批判することはとても簡単です。特に歴史的な評価や権威付けがなされていない、アート(音楽を含む)やデザインは、どうしても[それまでになかったようなもの][違和感を感じさせるもの][一見簡単に作られたようなもの]であればあるほど批判されがちです。そのような批判は、予備知識などなくても誰でもできます。しかしそれは業界にとってプラスになるとは思えませんし、ただの妬み・足の引っ張り合いにも見えます。逆に、歴史的な評価が定まっている「名作」「傑作」を批判するのは、「それがなぜよくないのか」を説得力をもって説明するのに専門知識や高度な美意識が必要なので、読むに値すると個人的には思います。

さて、上記のような考えを踏まえつつ、本ブログでこの「防衛省」のロゴをどう論じるのか。これはもう、冷静に長所・短所を挙げていくしかありません。理想を言えば、批判の嵐が吹き荒れているなかで、論理的な説得力をもって「これはすばらしい。傑作だ」と言えればよいのですが・・・。




まずは、マークの造形から見てみましょう。構成要素として、円と楕円のみで構成されています。「防衛省」という巨大な組織のマークとして、シンプルな要素だけで構成することはよいことだと思います。以前のエントリでも述べたように、巨大な組織であれば用途も多岐にわたるため、汎用性が高い方がよいのです。しかし、このマークには残念ながら汎用性が高いとは決して言えません。
問題は2点あります。まずは、カラーリングにグラデーション処理を使用していることです。グラデーションは印刷方法によってはきれいに出ないことがあるので、通常は避けることが多いのです。今の印刷技術は昔よりは格段に向上しているので、グラデーション表現を使用しても、場合によっては問題ないこともあります。それでも印刷媒体(例えば段ボールなど)によっては色が汚く出てしまうことがあります。
2点目の問題は、真ん中の輪っかの最細部分や、2つの円の周りにある緑色の線が細すぎることです。これも印刷によってはうまく表現されない(つぶれてしまう)ことがあります。

さて、ではロゴの設計思想(コンセプト)はどうでしょう。これは、現在自衛隊が置かれている難しい状況を考えると、誰も「答え」が出せないのではないでしょうか。そのため、一番クレームが付かないことを念頭に置いて、選出されたのではないかと思います。そのような消極的な姿勢で制作されたものには、かえって多くのクレームがつくことがあります。なぜなら、誰も満足しないからです。シンボルマークの隣の「防衛省・自衛隊」の丸ゴシック体もそのような考え方で選ばれたのでしょう。安直なエコブームを彷彿とさせるようなロゴだと思うのですが、いかがでしょうか。

これらの問題は、制作者にあるとは思いません。公募コンペはコストが安く、指名コンペよりは公平性があるので、利用したくなるのもわかりますが、その分主催者側の資質が問われます。安易な公募コンペで採用されたデザインには質の高いものは少ないと思います。

●防衛省・自衛隊

造形:★★
テーマ表現:★☆
汎用性:★★

※5点満点




奇しくも、裁判員制度のマークにも上記に論じた解説とまったく同じことが当てはまります。(これは公募コンペではないようですが)。こういうものが流行なのでしょうか。不思議です。











●裁判員制度

造形:★★
テーマ表現:★☆
汎用性:★★

※5点満点