2011年11月21日月曜日

東京都美術館の新ロゴ

今回取り上げるのは、先日発表された「東京都美術館」の新ロゴです。デザインを担当したのはデザイナー/アーティストとして活躍されている吉岡徳仁氏。一般的にはauの携帯電話のデザイン等、プロダクトのデザインで有名です。しかし、吉岡氏はグラフィックデザイナーではないので、ロゴの制作者としては、畑違いと言えます。





さて、このロゴを見て皆さんはどのように感じたでしょうか? 「シンプルでカッコイイ!」とか、「すっきりしていて良い」、あるいは、「え?これだけ?」、といった感じでしょうか?
私はこれを見て「よくも悪くも、わかりやすいかっこよさがある」「色のチョイスにセンスがある」と感じました。最初の「よくも悪くも・・・」というのをもう少し突っ込んで言うと「一見かっこよさげだけど、本来ロゴとしての完成度が高いわけではない」ということです。詳しく解説します。

まず、一見かっこよさげなのは、シンプルな立方体と、心地よい字間のある「東京都美術館」の文字の組み合わせが、吉岡氏の得意とする「ミニマルの美」を感じさせるからだと思います。携帯電話などの有名なプロダクトに限らず、吉岡氏のアート作品などでも、シンプルさや透明感を感じさせる、息をのむような美がそこにはあります。そのような吉岡氏の作風は、このロゴにもそれなりに表現されています。
しかし、私がどうしても気になるのが、「東京都美術館」の文字部分です。この文字はMacユーザーにはおなじみの「ヒラギノ角ゴシックW3」というフォントです。Macを買えば標準で付属しています。「ヒラギノ角ゴシック」は確かに完成度の高い書体ではありますが、そのまま組んで完成度の高いロゴになると言うことはあり得ません。これはどんなに名作の書体にも言えることですが、一般的に書体というものは文章が美しく見えることを前提に設計されます。特に明朝体・ゴシック体のようなスタンダードな書体ほどその傾向が強いのです。ロゴとしてそのまま利用するには無理が生じます。そのため、グラフィックデザイナーがロゴを作るときは、文字を描き起こすか、既存の書体を使う場合であっても、文字の組み合わせにおいて最も美しく見えるように、各文字をカスタマイズします。
書体の選択も本当にこれがベストなのでしょうか? 「ミニマルさ」を表現するためにスタンダードなゴシック体を選んだのだと思われますが、「ヒラギノ」が「ミニマルさ」を表現するのに適したゴシック体なのか。下の英語フォントはそれが表現できていると思いますが、ヒラギノは書体を構成する各パーツはけっこう複雑で、下のシンプルな英語文字とも合っていないように思います。
一時的なキャンペーンロゴとして使用する前提なら、「ヒラギノ」をそのまま使うのも「アリ」かもしれません。しかし「東京都美術館」のような公共性の高く、長期の使用が前提であればこのような文字部分の細部にもこだわるべきでしょう。


全体としてはかっこいいので、上記のような欠点のため実に「惜しい」ロゴと言えるでしょう。せめて文字部分は文字専門のデザイナーに外注したほうがよかったかもしれません。このような、細部の完成度の低さはそのままロゴ自体の寿命に反映されます。「かっこいいのに完成度が低い=時代性によって風化しやすい」のです。たぶん、このロゴは10年以内に変更されると思います。


●東京都美術館

造形:★★★
テーマ表現:★
汎用性:★★★

※5点満点