2011年9月21日水曜日

クールジャパンのロゴ「JAPAN NEXT(佐藤可士和)」

久しぶりに、話題性のあるロゴが発表されました。「クールジャパン」ロゴです。日本文化を海外に向けて発信する、経済産業省による「クールジャパン戦略」で用いるためのものです。






このロゴは、佐藤可士和氏のデザインによるものです。さて、ここでわざわざ今一番の売れっ子である、佐藤可士和氏のデザインについて言えることはあるのでしょうか。賞賛するにせよ、批判するにせよ、どちらにしても「お前が言うな」との批判を受けかねません。メジャーなものを批評するのは、外部に溢れている情報の影響を否定できず、意外に難しいと感じます。twitterや掲示板等でもすでにこのロゴは話題になっており、「今さら感」も強いです。

しかし、いろいろ悩んだ結果、簡単な感想と分析は試みようと思います。ロゴの出来についてはあえて批判的なことは書きません。ですが、本記事をよく読めば私の考える「すごいところ/欠点」は読み取れると思います。


1.ロゴの「時代性」
このロゴを見たときに、すぐに感じたのは「時代性」です。良くも悪くも「今どきっぽい」と思いました。とにかく80年代までの「造形に凝りまくった」ロゴとはまったく逆方向のベクトルを向いています。「CIブーム」の80年代まではとにかく凝ったロゴが多かったと私は考えています。「凝った」とは、「デッサン力・絵の上手さ」を主張する造形です。80年代に造られた有名なロゴの造形は、デッサン力がないと絶対に辿りつけない形のものばかりでした。しかし、それらは一部の名作を除けば、今から見ると(良し悪しは別として)「ダサく」見えるものが多いです。そのため、「昔は良かった」ということではありません。その後、90年代、00年代と時代を経るに従って、「シンプルさ・簡単さ」を感じさせるものが流行しはじめ、現在は「すこし外した感じ」が流行しているように感じます。

「クールジャパン」ロゴもこの流れの中にあるデザインだと思います。税金を使った公共性の高いロゴなので、「時代に合っていること」そしてそれゆえに「文句が出にくい」ことは、重要です。
「時代性」という観点から見ればこのロゴは、「古臭くなく、チャレンジしすぎず」という点で、適切なデザインコンセプトだったのではないでしょうか。


―2.ロゴの「品質」
「誰にでも作れそうなシンプルな造形」であるからといって、簡単に作れるわけではありません。このロゴは見た瞬間にそれなりの「説得力」を感じます。ということは、手間をかけて微調整を繰り返した結果だと言えるでしょう。ロゴマークを構成する、丸の大きさやスピード線の太さや尖り具合などは、微調整を重ねた結果だと考えられます。
下の「JAPAN NEXT」の文字はユニバースというとてもポピュラーなフォントだと思われますが、たぶんロゴ用に一文字一文字微調整をしていると思われます。ウェブでの画像では、細かいところまでは判別できませんが。フォントの選択については適切だったと思います。マークにも合っています。
全体として「一流のデザイナーが作った」という品質は有していると思います。


3.このロゴは「クール」なのか
このロゴの評判を見ると、「クールじゃない」という批判を多く見ました。しかし、「ではどうすればクールになるのか?」「何がクールで何がクールでないのか?」という問いにはっきりと答えられる人はほとんどいないかと思われます。特に価値観が多様化している現在、そもそも「クールジャパン」という言葉自体に「ダサさ」を感じる人も多いでしょう。ですので、どんなに歴史的な名作ロゴをここに持ってきたところで、見た人が「クールじゃない」と言ってしまえば話はそこで終わってしまいます。俗な例えをすれば、芸人が「何かおもしろいギャグやって」とムチャぶりされるのと同じで、誰がやっても結果はあまり変わらないと思います。「クールか?」という問いには、それぞれ好きなように感じてもらえばよいのではないでしょうか? 私なら「まあ、クールだと思うよ」と答えます。あと、文字部分を「COOL JAPAN」でなく「JAPAN NEXT」としたのはよい判断だったと思います。


4.選考の問題
さて、ロゴ自体については特に批判するようなところはなかったのですが、このロゴが選ばれた経緯については非常に疑問があります。政府からの発表では、「全99案の中から、関係府省および有識者による絞り込みを経て、野田佳彦内閣総理大臣が判断」とあります。さらに「ロゴ・メッセージを7月26日から8月15日までの21日間で公募」とあります。
これには違和感を感じました。まず、今回のロゴの決定が「公募」であった点です。公募とは辞書によれば「広く一般から募集すること」とあります。それなのに、こんなに大きなコンペに全部で99案しか集まらなかったのには、疑問を感じます。本当に「広く一般から」募集したのでしょうか? すくなくとも私はこのような公募があったことは知りませんでした。「99案」ということは99人以下しか応募していないことになります。一人10案提出したら、応募者は10人程度です。有名デザイナーだけに声をかけた、「指名コンペ」だったんじゃないの?と勘ぐりたくもなります。個人的には公募がよいとは思ってませんので、指名コンペならそのように発表すればよいのに、なぜ「公募」と言ったのでしょうか。「公募」と言わないと国民からクレームがつくからでしょうか? よくわかりません。誰でも応募ができる「公募」に佐藤可士和氏のような超有名デザイナーが応募するのかも疑問です。

このロゴの募集に関する経費は税金が使われているので、選考過程や99案の内容、(指名コンペなら)参加したデザイナーなどもオープンにして欲しいです。今時トップダウンで「これに決まりました」では国民は納得しないでしょう。